先輩の話

古琴の先輩に久しぶりに会った。先輩と言っても、歳はず~っと下。孫にしてはちょっと大きすぎるくらいの年齢の青年。会うたびに、その古琴愛の強さにおどろかされる。

今日も「手の形」(私にとって大きな課題)の話になった。彼は習い始めの頃、自然な手の形を研究するために、街を歩いている人たちの手をいつも観察していたそう。前に、「漫画に描かれている手の形も参考になるよ」と言って、うちにあった漫画本を手に取って説明してくれたけれど、街の中で、「人間観察」もしていたんだ……。本当に頭が下がる。

今日、そんな彼がふっとつぶやいた――「僕の生活は古琴がすべてなんだ」。お母さんのことを思いやる言葉をふとこぼしたり、まだ一歳にならない息子の話を、かわいくてならないといった様子でしてくれる彼を見ていると、古琴以外の生活もしっかりと送っていると思うのだけれど、時々、「えっ?」と思うような言葉をポロリと言う。

たぶん彼は、家庭人、社会人としての生活もしっかり送りながら、心は古の文人たちのように、もう一つの世界を自由に飛び回っているのだろう。私はあまりに俗人で、おまけに長い人生でたくさん傷を受け、心がだいぶねじ曲がってしまったから、素直に古琴と向き合えていない気がする。

いつか、素直に、彼のようにすがすがしい、潔い心で古琴に向かい合える日がくるのだろうか?