翻訳権の問題があるから、全文を訳すことはできないけれど、とても好きなお話なので抄訳を紹介したい。若くして亡くなった、三毛という台湾の女流作家さんの小品。この作品の収められた本は訳されていないけれど、別の本は邦訳があるーー『サハラ日記』(筑摩書房)。
見守る天使
12月も20日を過ぎたころ、近所の坊やが厚紙で作った天使をくれた。
「でも本物じゃないよ。天使は本当はいないんだ」
「あら、いるわよ。私にだってずっと前に二人いたわ」
「いまはどこにいるの?」
「遠い空の上」
「天使と一緒だったのに、なんで離れ離れになっちゃたの?」
「その時は、天使が守ってくれてるって気が付かなかったの」
「天使は子供を守るの?」
「そうよ。子供のことが好きすぎて、泣いちゃうこともあるのよ。それでもハンカチを出して涙をふくこともできないの。翼を下ろしたら子供を守れないから。
でも、子供は大きくなると天使に言うの。『いかなくちゃ。でもついてこないで。そういうのイヤだから』」
「天使はどうするの?」
「何も言わずに喜んで送り出す。それから急いで、子供が見えるように、うーんと高いところまで飛んでいく。子供がずっと遠くに行って見えなくなったら、家に帰って泣くの」
「子供は天使のこと思い出さないの?」
「思い出すわよ。でもしばらくあとになって、天使のもとに二度と戻れなくなってから思い出すの」
「なぜ戻れなくなるの?」
「それは、自分にも翼が生えてくるからよ。翼の下には新しい子供がいて、もちろん泣きたくなることもある」
「天使になるのってつらいんだね」
「そう。でも天使にとってはそれが幸せなのよ」
「おばさんに二人の天使がいたのなら、なぜずっと一緒にいなかったの?」
「さっき言ったでしょ。戻れなくなるまで、二人が天使だったってことに気が付かなかったのよ」
「よくわかんないな」
「大きくなったらわかるわよ。いつかあなたのパパとママが……」
「パパもママも仕事で忙しくて、ぼくたちの相手をしてくれない。全然つまらないよ!」
通りの向こうから大きな声がした。「トミー、ご飯よ!」
「ほらね、一日中、ご飯、ご飯って、本当にいやになっちゃう」
トミーはぶつぶつ言いながら家に向かって走り出した。
「ぼくにもそんな天使がいたらなあ! でもそううまくはいかないよね」
トミー、今のあなたにはまだわかっていないのよ。で、いつかわかったときには、もう遅すぎるの。